サックスの嘆きを聴いてもらいまひょ

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カラオケというものが世に出回ったのは、多分わたくしが社会人になるより、ちょっと前あたりではなかったでしょうか。

実際わたくしがカラオケの伴奏で衆人環視のもと、初めて下手な歌をむりやり披露させられたのは社会人一年目のこと。会社の先輩に連れられて初めて行ったスナックで、ゴダイゴの「ガンダーラ」という歌をうたわされたのを今でも鮮明に覚えております。いやー恥ずかしかったですなー!

その当時のカラオケというのはもちろん今と違い、その歌の内容にそったイメージ動画の下に映る字幕を見ながら歌うなどと云った便利なものではなく、8トラックと云う、なにかカセットテープの親玉みたいなプラスチックの小箱を、エレキギターのアンプのような機械にセットすると伴奏のみが流れるといった仕掛け。この伴奏の音楽に合わせて、お店備え付けの分厚い歌の本から、ページを必死にめくって、その歌詞を探し出して歌うといった手間のかかる仕組み。お店のシステムにもよるのでしょうが、我々貧しいサラリーマンが行く様なお店は、一曲100円200円とかの現金をその都度お店のママに渡すといったことが多かったように記憶しております。

さて、当時と言いますから、昭和50年~60年あたりのカラオケでの人気の歌のジャンルと言いますと、これはもう圧倒的にムード歌謡。

ムード歌謡をウィキペディアで調べますと、

“戦後、連合軍占領下の日本で、外国人相手に活動していたバンドが、解放後に銀座や赤坂のナイトクラブでムーディなダンス音楽を演奏し始めたことが始まりである。和製ラウンジミュージックの元祖”

と、ございます。ラウンジミュージックとは笑止千万ながら、伝統的なド演歌とは一線を画する、ムーディーな都会の大人の歌謡曲といった感じでしょうか。

代表的なところでは、

昭和の大スター、裕ちゃんこと石原裕次郎の「ブランデーグラス」を筆頭に、「銀座の恋の物語」「ラブユー東京」「夜の銀ぎつね」「コモエスタ赤坂」「黒い花びら」「星降る街角」「別れても好きな人」「ホテル」「つぐない」などなど、数え上げたらきりがないほど。

古い体質の演歌が、浪曲や民謡に根差し、農民や漁民の生活や、その様な環境から都会に出て、立身出世を夢見る、はやる田舎モン若人の心意気を歌った泥臭い内容のものが多いのに対して、ムード歌謡はあくまでも都会の夜が織りなす男女の出会いと別れに特化した、いわば水商売の応援歌のような様相を呈していたわけであります。それが証拠にムード歌謡を歌う女性歌手、例えば松尾和子、シルビア、青江三奈、欧陽菲菲、テレサテン、梓みちよ、桂銀淑など、どなたを見てもクラブやラウンジのママかチーママの風情。

男の方だって負けちゃいない、「星降る街角」という曲をヒットさせた、敏いとうとハッピー&ブルーという男性コーラスグループなんかは、もう完璧にホストクラブ一店舗そっくりそのまま。リーダーの敏いとうさんなんか、いかにもホストクラブを経営する反社のオーナーのような風情。ひょっとするとホンモノかも思とりました。さて、この流れを今に汲むのがスーパー銭湯アイドル「純烈」。しっかりこの名曲「星降る街角」もカバーしてますね。

もちろん水商売応援歌という事で、お店の営業の一助にもなる工夫がちゃんと完備しておりまして、それが男女のデュエット曲。ホステスがお客の心をつかむ為に、お客と歌を通じて愛を語り合うわけですね。綺麗なお姉ちゃんに瞳を見つめられ、たとえ歌詞であっても、愛の言葉をささやかれたら、酔っ払いのオッチャンなんかイチコロでっせ、ホンマようでけたーる。

デュエット曲の定番と言いますと、冒頭に挙げた曲名と重なりますが、定番中の定番、ギンコイと言えば通るほどの「銀座の恋の物語」それに、「東京ナイトクラブ」「別れても好きな人」「居酒屋」「男と女のラブゲーム」、あと、「忘れていいの」という●川知子と●村新司のデュエット曲がありましたが、これはイカン、赦せん!なにがいかんか言うと、曲はともかくとして、そのミュージックビデオ云うんでしょうか、販促の一助として実際、●川、●村両名が一緒に歌うサマを映像として納め、これを歌の宣伝等で流していたわけでありますが、まあ、この映像の内容が明らかに公序良俗に反する不謹慎、不道徳な内容。

実際の映像では、身体を前後に密着して歌う中年男女二人が歌のサビの部分に差し掛かるや、いかにも好色漢の風情漂う●村が、後ろから●川知子さんのドレスの胸元へ、あろうことか片手を差し入れていくではないですか!まさかの破廉極まる振る舞い、何さらしてけつかんねん!こんなん子供に見せられん!

その後これを真似て、ラウンジなどでデュエットの相手として指名したキャストの姉ちゃんに同様の狼藉を働く、俳優香●照●氏のようなオッサンがその後もあとを絶たず。まことにお店の従業員に対しても迷惑な歌であったわけです。

さて、このムード歌謡に欠かせぬ楽器がなんと言っても冒頭にも写真で挙げております、サックス。ムード歌謡の王様、石原裕次郎の代表曲、「夜霧よ今夜も有難う」のオープニングでもお馴染みの、むせび泣くようなサックスの音色で始まるのはご承知の通り。大体においてムード歌謡の間奏でソロを取るのは圧倒的にこのサックスという楽器。今の時代ですとエレキギターがソロを披露することが多い中、昭和のムード歌謡はむせび泣くような濃くてディープなテナーサックスが中心。

こちらも石原裕次郎の大ヒット曲「銀座の恋の物語」。その歌詞の一節、

“優しく抱かれて 瞳をとじて サックスの嘆きを 聴こうじゃないか 灯りが消えても このままで 嵐が来たって 離さない”

サックスという楽器は人の吐き出す息によって奏でられる管楽器であります故、より一層奏者の感情移入が容易なのでございましょう。まさにむせび泣くサックスの嘆きが、恋に破れた心に突き刺さるのでございます。水商売のかりそめの恋とは言え、ホステスとて生身の人間、割り切れぬ感情を昭和の女はサックスの息吹によって癒されたことでしょう、知らんけど。

という事で、今でもスナックにボトルキープし、余生をカラオケ三昧でお楽しみのご同輩諸君。昔の栄光を懐かしんで、一つこのサックスのブローチで身を飾って、人生最後の老いらくの恋でも探してみたらいかがかな。諦めるのは早すぎる、加藤茶氏を見習い給え!

掲載ページはこちら → https://item.rakuten.co.jp/douxperenoel/01003081/

 

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