黒澤明と言えば日本が世界に誇る映画監督。
映画「羅生門」で1951年のヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、続けてさらに第24回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞したのをきっかけに、彼が紡ぎ出す名画、名作はその後も海外の名だたる映画賞を次々と受賞。晩年にはアメリカの映画芸術科学アカデミーからその長年の映画界に対する功績を称えられてアカデミー名誉賞が、そして没後は日本国政府から国民栄誉賞まで送られているのでございます。
ハリウッドの名監督スティーブン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカス、フランシス・フォード・コッポラ、マーティン・スコセッシ、スタンリー・キューブリックなどなど数々の巨匠から映画の師として尊敬されており、世界の映画界に与えた影響は計り知れません。
さて、この世界の黒沢監督作品でわたくしの一番好きな作品が「用心棒」と「椿三十郎」。これは続編二部作で、主人公の三船敏郎演じるやたら腕の立つ素浪人が、悪い奴をバッタバッタと切り捨てる痛快娯楽時代劇。
ドストエフスキーや芥川龍之介などの文学作品を原作にすることの多い、少しめんどくさい傾向の黒沢作品にあって、この二部作は例外的に娯楽に徹した映画と言ってもよいかと思います。
また、この映画の主人公もそれぞれの作品で、その名乗る姓こそ違いますが三十郎という名の浪人を演じた三船敏郎のカッコよさといったら、もう典型的な映画のヒーローそのもの。実際この後の時代劇に登場する腕の立つ浪人の原型がこの三船演じる三十郎であり、なおかつそのかっこよさを超えるキャラクターは皆無。このスーパー浪人侍の原型は映画、テレビの時代劇の枠を超え、後の劇画の世界にも影響を与えたのでございます。
テレビや映画にもなった伝説の劇画「子連れ狼」などでお馴染みの小島剛夕先生は、その「子連れ狼」の主人公、拝一刀の作画のイメージを三船敏郎の浪人姿をモデルにしたというほど。また、この小島先生の師匠である白土三平先生もその作画の上で、刀によって人間が惨殺されるシーンで、血しぶきの飛び散る描写など、まさにこの両シリーズ、特に「椿三十郎」のラストシーンに大きく影響を受けていると見られます、
さて、この二つの剣豪浪人モノのなかの一つ「椿三十郎」。そのなかで印象深いのが、この浪人の名前にもなっている椿の花。
物語の舞台となるのが通称、椿屋敷と呼ばれる椿の花が美しく咲き乱れるお屋敷。この椿の花が後々物語の展開にも重要な役割を担っていく訳でもあります。
わたくし、この映画を思い浮かべる時、まず鮮明な印象として脳裏に浮かぶのが劇中に出てくる真っ赤な椿の花。しかし実はこの映画、初期黒沢作品共通のモノクロ撮影。つまり白黒の映像な訳で、赤い椿の花の印象が残る訳はないのでございます。
実際撮影秘話として、黒沢監督は椿の花のシーンだけパートカラー、つまり部分的にカラー映像にしようかと企んだらしいのですが、技術的に不可能。そこで、撮影スタッフは赤い椿を黒い色に塗り、モノクロで見た場合の深紅のイメージを創作したという事。こういうのをきっと匠の技と言うのでございましょう。黒を赤に見せるなんて。
さて、こちらにご覧いただいておりますのも、椿の花のようなイメージのブローチ。大変大判の商品で縦横およそ6センチ四方で目方もずっしりと46グラム。実に立派なサイズのブローチの使われているルビーが20キャラット、葉っぱの部分に使われているグリーンのガーネットですら4キャラットを超えるボリュームの超大作。ブローチとは云えど下手に薄い生地のブラウスなんかに着けるとブローチの重さで服がずり落ちてしまうからご用心。
さてこちらのお品、ご覧いただく画面からもその迫力が伝わってくるかと存じますが、これはなにも、製品の大きさと、豪華に散りばめられた宝石だけのお陰だけではございません。
実は黒澤組撮影スタッフの工夫と同様の細かい工夫がこの製品の細部には施されているのでございます。それは何かと申しますと・・・・
ダイアモンドを除く石留部分の小さな18金ホワイトゴールドの爪部分は全てブラックメッキが施されております。この石留の爪全体を黒くすることによりまして、この花の赤と葉の緑がよりはっきり鮮やか、いきいきして見えるようになっているのでございます。ただ驚くべき事に、このブラックメッキは、石留の後のサシメッキという手法で施されている点なのでございます。つまり、先ずブローチの土台となる地金部分全体に一括でロジュウムでホワイトゴールドメッキを施した後、この細かいルビーとグリーンガーネットを一個ずつブローチ枠に石留していきます。そして全ての石留が終了した後、このそれぞれの石を留めている爪一本づつに黒の部分メッキをメッキペンという道具でもって施していくのでございます。この細かいルビーとガーネットの総数がおよそ500個前後はございますので、爪の数はそれを遥かに上回る数。想像するだけで気の遠くなる、細かく根気のいる作業。したがいまして、この石留とサシメッキの工賃だけでも相当な金額が想像できるというもの。
こちら、一見アクセサリーかとも見紛う大判のブローチ、実はスゴ技撮影技師の職人技が凝縮された黒澤映画作品のように、目の肥えた人にはおのずとわかるジュエリーの逸品なのでございます。
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