顧客育成はママ活の巻

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相撲の世界にはタニマチという言葉がございます。これは力士個人や部屋の後援者、パトロンの事で、飲み食いの世話はもとより化粧まわしの寄贈、いわゆる夜の街の接待を伴うお店への接待、何やかやの差し入れ、小遣いの援助などなど、ありとあらゆる世話を焼いてくれる有難いお客さんの事。昔大阪の谷町に相撲好きで、お相撲さんは無償で診てくれる外科医の先生がおられたらしく、その住所の谷町がこの語源になっているそうでございます。

タニマチは何も相撲の世界に限った事ではなく、プロ野球、サッカーなどのプロスポーツ選手や芸能全般のいわゆる人気商売といった分野に幅広く広がっているらしゅうございます。また更には水商売、特にホストクラブの世界では贔屓のホストの売上向上に貢献しなければなどといった、タニマチ的顧客がその稼業を支えているそうでございますが、そのタニマチ的顧客にならんが為に、客自らが水商売や風俗といった業界に身を沈め、このスポンサー料の原資を稼ごうとする涙ぐましい努力を傾注される若い婦女子もおられるやに伺っております。

さて、こうしたタニマチ的風潮はさらには小売り業界の一部の客層にも浸透致しております。

ご承知の通り、小売店、特に高級品を扱うようなお店では、店員個々人に売り上げ目標、即ちノルマというものが割り当てられている事が多く、これの達成いかんによって給料やボーナス、ひいては将来の出世にまで影響を及ばすというから皆もう必死のパッチ。

この必死のパッチの様子に、つい情にほだされて買ってあげたくなるのがタニマチ気質の気風の良いところ。

さて、宝飾業界もご多分に漏れず、と言いますか、売り上げの大部分をこういったタニマチ的顧客に支えられていると言っても過言ではございません。

高級ブランドのファッション、アパレル業界などでは春夏、あるいは秋冬など季節ごとの新作発表に伴い、その受注会などと称して優良顧客、すなわち上得意と呼ばれるタニマチ的顧客様を店頭なり、特別会場なりへ招待して、店頭に並ぶ前の新作をいち早く入手して頂こうといった試みが行われているようでございますが、宝飾業界とて実は同様。

宝飾業界はアパレル業界ほど商品に季節感というものがなく、別に春と秋に新作発表会というものを敢えてする必要はないのですが、どういう訳か昔から春と秋が多いようですな。まあ、温暖な気候で外出しやすいと言った加減もあるのかも分かりませんが。

さて、こういった展示会、宝飾品の場合はやはり圧倒的に一流ホテルの大宴会場を借り切っての大掛かりなものが多ございます。天井から豪華シャンデリアのきらめきが会場全体を照らし、その光を受けて陳列のあまたの宝石が眩く光り輝く。もうこの光景だけで宝石好きは陶酔の極みへ昇る詰める仕掛け。

ただ、こういう場所へいざ顧客を動員するのが一苦労。

この様な展示会はその宝石屋なり百貨店外商部なりが一丸となって取り組む事が多いため、新入社員でも容赦なく動員目標はあてがわれます。運よく良いお客を既に掴んでいる新入社員は幸運ですが、そんな有難いお客に恵まれない子は哀れなもの。親、親戚に泣きつくより他ありません。

さて、ではそんな未熟な新入社員中野クンですが、何回か展示会を乗り越え、とうとう泣きつく親、親戚が途絶えたのちはどうしたらいいのでしょうか?

そうです、ついに、とうとう、本来あるべき形としての客に泣きつくのでございます。しかし、そういった新入社員の顧客というものはベテラン社員の見捨てた残りカスと言っちゃ悪いが、見込み薄のお客さんですから、普通に誘ってもおいそれとはのってくれません。しかし中野クンも必死です。鬼の店長からの顧客動員できなかった場合のつるし上げは火を見るよりも明らか。それが展示会ごとに続けば異動か最悪クビ。もう演技も何もない本当の泣き落としがここでやっと出来るわけであります。

 

「今度の展示会なんとかお越しいただけませんでしょうか?」

「ホテルの展示会やなんて私ら分不相応やわ、他の人に頼んだらええやん」

「いや、ぼく高橋さん以外こうやってお願い出来るお客さんいてないんですわ、お願いです、頼みます、せやないと店長から大目玉くらう羽目になるんですわ」

「いやー、そんなんやったら行ってあげたいけど、私らそんな高級なとこで買わしてもらうモンあれへんし」

「いえ、何も買って頂かなくていいんです。お顔だけ出して頂ければ、それで一応僕も努力してお客さん呼んだ言う事で顔が立ちますねん。お食事も出ますし、ご飯だけ食べに来ていただいたらええんで、なんとかたのんます」

「そんなん、行って買わんでええのん?食い逃げみたいで義理悪いやん」

「いえ、買う買わないはあくまで商品との出会いですから、お好みに合うモノがなく、結局買わないでお帰りの方も結構おられます。どうか僕を助ける思ってなんとか!」

「そう、そこまで言うんやったら行ってもええけど、ホンマ買わんよ、言うか、買えんよ私ら、貧乏人やねんさかい」

「ありがとうございます!」

これが新入社員中野のタニマチ第一号獲得の瞬間。

買わないと断言してた高橋さんも、シャンデリア煌めく異次元空間に呑まれ、凄腕販売員にからめとられ、前言を翻し宝飾デザイナーブローチ壱点五十萬円也のお買い上げ。それからというもの、あらあら不思議あら不思議この高橋さん、展示会の常連客になったとさ、めでたしめでたし。

さて、一般的にこういった宝石屋の顧客層は大体が40代から60代の女性客が大半を占める訳で、片や営業にあたる方の社員は20代から30代の若い男子が中心。ついつい母性本能か女性本能か定かではございませんが、よんどころない本能をくすぐられてタニマチ化していく訳でございます。

実際、宝石の購入が目的で展示会に行くのではなく、その担当の社員を助けてあげたい、力になってあげたいという屈折した愛情が購入動機となっている場合が多々見受けられます。

現在、わたくしが勤務しております質屋でも、さらには前に勤めていました質屋でもそうしたタニマチ買いして溜まった品物を定期的に処分されにくるお客様がおられました。しかも双方とも私が以前勤務しておりました宝石屋の得意客。いやー、良心が痛みますねー。

しかし、実はそういったタニマチ顧客の処分品こそが、何と言っても質屋販売の宝飾品の中ではダントツの一押し商品となるのでございます。何せ、高級ホテルの展示会で売られている素性の確かな一級品である事に加えて、義理で買ってるだけに使っている回数も少ないか、全く未使用の場合すらあるのです。例えるなら中古ジュエリーのサラブレッド。

さて、そんな典型的なサラブレッドがこちら。

こちらはクイーンジュエリーという和製ブランドの商品なのでございます。かつては、ホテル催事と呼ばれるそういった大掛かりな展示会のレギュラーメンバー。このブランドはかつてあった平和堂貿易という時計宝飾品の輸入・卸商社が、海外の一流ブランドにも一歩も引けをとらない商品をという事を目指し開発したオリジナルブランドでございます。なにせこの宝飾ブランドを立ち上げたのがあのバブル全盛期。最高の素材を使い、しかも海外の一流工房で制作し、それを日本に逆輸入してという手の凝りよう。

こちらのパールの指輪も、非常に上質なピーコックカラーと呼ばれるブラックの地色の上に赤系統のオーバートーンを呈する黒蝶真珠とシルバーグレーの南洋真珠を上下にあしらい、そのリングのウデにはこれも最上級のメレダイアを贅沢に1キャラット弱、見事なパヴェセッティングによって配してあります。腕の内側にある金性の刻印もK18ではなく750と打刻されているからには海外製造に相違ありますまい。

このリングを製作致しました平和堂貿易なる会社はバブル崩壊とリーマンショックのあおりを受け、残念ながら2016年に倒産したそうでございます。しかし、虎は死して皮を残す、宝石商死して名品を残すの譬え通り、こちらのお品、正にバブル景気の伝説を将来に伝える証したり得る逸品であることに相違いございますまい。

掲載ページはこちら → https://item.rakuten.co.jp/douxperenoel/11004143/

 

 

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