最近ではテレビやインターネットの普及によって地方色、ローカルカラーというものがどんどん薄れてきております。特にお国訛りなどといった、その地方独自の文化が育んだ情緒ある、その土地ならではの方言が消えていくのは寂しいかぎりでございます。
例えばテレビの人気番組、所ジョージの「笑ってこらえて」のダーツの旅や、笑福亭鶴瓶の「家族に乾杯」などで、全国津々浦々、どこの地域にまいりましても、若い人たちは大体が標準語でインタビューに対応をしております。
ただ、そういった時代の趨勢に取り残され、標準語化が最も遅れているのが大阪。関西漫才の全国的な人気を盾に、若人達も普通に大阪弁でインタビューに対応しておりまして、中には調子に乗って、「なんでやねん!」などとツッコミを入れてくる輩もいる始末やから始末に負えん。
まあ、そうは言ってもやはり私の子供時分に比べますと、大阪弁もかなりその濃度が薄まってきているのもまた事実。
「河内のおっさんの唄」という唄が昔流行りましたが、この唄、その歌詞全編が大阪弁の中でも特にガラの悪いとされている河内弁で構成されております。この唄、このガラの悪さが当時世間にウケて、大ヒット致しまして、なんとヤクザも恐れぬ東映ピラニア軍団、川谷拓三氏主演で映画にもなったほどなのでございます。
わたくしがご幼少のみぎり、まだ小学生低学年の頃、兵庫県宝塚市から大阪府は河内市へと引っ越してまいりました。現在、この河内市は隣接する二つの市と統合され東大阪市となっておりますが、当時は堂々と河内と名乗るほどですから生粋の河内、中河内、本河内、マジ河内。
さて、越してきて早々、近所の田圃に幼いわたくしと弟が網なんぞ携えて蛙を取りに行ったおり、ちょうどそこへ通りかかったその水田の持ち主であろう農夫が幼い兄弟にこの様な言葉を投げ掛けたのです。
「おんどれら、どこどのがっきゃ、おーっ?」
これを直訳すれば「君たちはどちらのお子さんかな、ねえ?」くらいの事で、何という事もないのでありますが、乙女の聖地、お上品な宝塚育ちのやわな幼子にとっては、まるでナマハゲの恫喝の様に聞こえ、たちまち憐れ幼子兄弟は手に手を取って泣き出してしまったのでありました。ホンマモンの河内のオッサンの迫力たるや物凄いものがありましたねー。
しかしえらいもんで、小学校から大学卒業間際までその地で暮らしておりますと、もうそこはウサギ美味しい古里。河内がバッチリ身に沁み、もう生粋の河内っ子と何ら変わらぬようになるもので、卑猥な冗談を女の子に投げかけては顰蹙を買い、それに喜びを見出すような立派な河内の兄ちゃんに成長を遂げたのでございます。お陰で心斎橋の老舗宝石店に就職した際には「君、なんか言葉遣い汚いよ。客が買ぉーていによりましたて、そんな言葉お客さんに使こたらアカンわ、お買い上げ頂きましたや、気を付けなさい、高級品を扱うお店やねんから下品な言葉遣いはあきませんよ」などとよく咎められたものです。
さて、古典落語の中には今では滅多に、というか全く滅びてしまったような言葉がいくつも出てまいりますが、その中にあって飛びきりガラの悪い言い回しが出てまいりますのが、家族に乾杯、駆けつけ三杯の笑福亭鶴瓶師匠、のさらなる師匠、名人六代目笑福亭松鶴が得意としておりました「らくだ」というお噺。
この「らくだ」というお噺は元々が関西落語の演目なのでございますが、今では東京でも多くの噺家さんが演じられる人気のお題。
さてこの題名の「らくだ」ですが、このらくだは何も動物園にいてる月の砂漠からはるばる連れて来られたあの動物のラクダではありません。図体ばかり無駄に大きいが定職にも就かず、人を脅したり、商店の商品をかっぱらったりしながら、家の家賃すら払わぬ傍若無人な暮らし向きをしている横町の鼻つまみ者が、その巨体ゆえにラクダというあだ名で呼ばれております。
お噺は、この街の鼻つまみ者のらくださんが、フグの毒に当たって死んでいる場面から始まります。噺の題の主人公がのっけから死んでいるというのもけったいな話ですが、この死体が後々噺の中の重要な小道具となるカラクリ。いや大男やから大道具ですかな?
さて落語の方はこのらくだの兄貴分、ヤタケタの熊五郎がこのらくだを訪ね、その長屋を訪れ、その死骸を発見するところから始まります。
おうッ! 卯之よッ! ラクダッ! けつかれへんのか? おいッ……!
ハハぁ、まだどぶさってけっかるねんな……、おい……!
やっぱりそや、どぶさっとぉる……、どやこれ、よぉこんな器用などぶさりよぉさらすで、
敷居枕に足庭へ放り出しやがって……、何ちゅうざまや。おいッ! 卯之ッ!
ラクダッ! 起けぇ! あッ!!
何じゃい……! どぶさっとぉる思たら、ゴネてけつかる。
枕元にかんてき(七輪)が置いたぁって、鍋が掛かったぁる。あたりに骨がぎょ~さん散ら
ばったぁる……、そぉか……、ゆんべ日本橋で会ぉたときフグぶら下げて歩いとった
「旬はずれのフグみたいなもん食ぅたらえらい目に遭うで」言ぅたら
「そんなもん、だいじょ~ぶや」言ぃやがったけど、
さてはあのフグ食らいさらして当たりやがったな……
【上方落語メモ第1集】その三十一より
さあ、いかがでしょう、この小気味よいまでのガラの悪さ。
噺が進行して行きますと、この兄貴分の熊五郎が博打ですって無一文という状況が明きらかになってまいります。それから察するに彼は博打打ち、すなわち渡世人、つまりはヤクザ。そのいかつく、コワモテな人物像を演出するためのガラの悪さなのでありましょう。
あまりのガラの悪さゆえに、よく理解できない、とくに関西以外の方には、もはや外国語並みや思いますので、解説を少しばかり。
最初、卯之よッ!と呼びかけてますがこれはラクダさんの本名なんでしょう。その後の<けつかれへんのか?>これは<居てないのか?>。そして次の<どぶさっってけっかる>凄いですね!これは<どぶさる>は<寝る>、<けっかる>は先ほどの<けつかれへん>の肯定形<居てる>ですから、二つが合わさって、<寝ている>となります。また<器用などぶさりようさらすで>は<器用な寝相をしてるものだなー>ですね。
さて次のフレーズがまた凄い<どぶさっとぉる思たら、ゴネてけつかる>。ゴネるといいますと、普通は不平不満を言う、文句をつけるというほどの意味でございますが、この場合は死ぬという意味でつかわれております。ですからこのフレーズは<寝てると思ったら、死んでいるではないか>という事になます。次の<ゆんべ>というのはゆうべ、昨夜ですね。さて、最後は大体検討がつくとは思いますが、<あのフグ食いさらして、あたりやがったな>は<あのフグを食って、あたったのだな>普通に言えば良いところを<さらして><やがった>が入ると断然強力になりなす。これらは河内の喧嘩、脅しの常套句としてよく耳にするフレーズ。「ワレ、なんさらしてんねん」「メンチ切りやがったな」怖いですね。
さて、この「どぶさる」も「ごねる」も大阪とはいえ今ではまあ使う人もおりませんし、その意味をご存知の人も少ないでしょう。現代の落語家さんはどうなさっているのでしょうか?やはり分かり良い様に現代語訳でやっておられるのでしょうか?それもまた味気ない事ですな。
さて、方言ではございませんが、どのような業界にもその業界ならではの独特の言い回し、「業界用語」というものがございます。宝飾品業界にも実際一般の方が聞いても分らない語句が結構ございます。
例えばダイアモンドに関して。ピケ石という言葉があります。これはダイアモンドの内包物が肉眼で確認できるほどに多く目立つもので、グレードで言うならばI1クラス以下の、ざっくばらんに言いますとキズ石のことです。
また、ゴロ石、スケ石というのもあります。これはダイアモンドの深さの度合いが理想から大きく外れているものの呼称で、ゴロ石は深すぎるもの、スケ石は浅すぎるものを指します。
ダイアモンドの輝きはそのカットに負うところが多く、理想的なダイアモンドの深さはその直径に対してだいたい60%くらいが良いとされ、この数値から大きく外れると輝きが落ちるのです。例えばこの数値が大きすぎるという事は石が深いということで、ゴロ石となります。その様な石はダイアモンド内での光の反射が再び上部に戻らず、脇からあらぬ方向へ漏れて行き、結果見た目が全体に暗い印象になります。その見た目の印象からこの様なゴロ石はネイルヘッド(釘の頭)などとも呼ばれたりいたします。
逆に数値が60%を大きく下回りますと、深さの浅いダイアモンドということになり、スケ石と呼ばれます。これは言葉通りダイアモンドに入った光が底のパビリオン部分で反射されることなくそのまま透過してしまい、見た目ガラスかプラスティックのように透けた素材のように見えてしまいます。その透けた空虚な様子が、死んだ魚の眼の様な有様なのでフィッシュアイなどとも呼ばれます。
さて、こういったピケ石、ゴロ石、スケ石といったダイアモンドはどういった製品に良く使われているかと申しますと、大体が鑑定書があまり必要とされないネックレスやブローチなどの装飾品。
キャラット数と値段だけに惹かれ、こういった光らないダイアモンドを買わされている方はけっこう多いのでございます。
さて、そこへいくと当店一押し、ティファニーのバイザヤードペンダントのダイアモンドというものは実に素晴らしい。同じキャラット数の商品の枠の直径はほぼ全て同一のサイズ。つまりダイアモンドの直径がほぼ均一。したがって深さもそれのほぼ60%に統一されて同一。すべてが理想のプロポーションで統一されて一糸乱れぬ有様。製品によって当たり外れの出る事の無い徹底した厳しい品質管理。もちろんキズ気の無いのは当然なんですが、このダイアのカット、プロポーションが何と言っても輝きの元。ここをおろそかにするとダイアの輝きは充分に発揮されません。さすがティファニーさん分かってらっしゃる!色、クラリティ、カットこの三位一体の優越こそがバイザヤードペンダントの最大の魅力の秘密なのでございます。
なんやワレ、ぱっとせんガラス玉みたいなモンぶら下げとる思たらピケのゴロ石やんけ。そんなもんダイヤはダイヤでも、ゴネさらしてけつかるようなダイヤやで。ワレ買おた時、どぶさってけつかったんちゃうんけ?それとも店員にたぶらかされたんちゃうんけワレ。ちゃんと目の玉ひん剥いてようモノ見て買わんとあかんどワレ。そこいくと、このティファニーのダイヤ見てみい。どや、眩しいやろワレ?これだけ光ってはじめてダイア云えんのじゃワレ。そっちのんもダイアには変わりはあらへんてか、アホぬかせワレ、それはネイルヘッド、つまりや、釘のドタマちゅーんじゃワレ、よう覚えとけアホンダラ、ボケ、カス、ワレ!
お後がよろしいようで。
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