「センセ、センセ。いかがでござんす、このサックスのブローチ。洒落てるでげしょ?」
「ああ、楽器の形のブローチか?変わっているね。しかし家内が気に入るかねえ?」
「何言ってんです。奥様になんて誰が言いました?センセにお勧めしてるんですよ」
「えっ!ワシがするのか?これを?冗談言っちゃいけないよキミ。子供じゃないんだから。第一、こんなの一体どこに着けるんだね」
「あれ、何にもご存じない無いんですねセンセ。ラペルピンといって、こういうのを紳士がスーツの襟とかに着けてるの見かけたことありませんか?」
「あーっ、そう言われれば、そんな景色を目にしたような気もするが。でもそういうのって、キミあれだろ、芸能とか、裏社会とか、いわゆるカタギでない人の装束の仕様じゃないのかね」
「何言ってんですか、ちゃんとまともな稼業のサラリーマンやお医者さんとかが、普通にお洒落としてお着けになっますよ。大体センセこそ人の事をカタギでない、なんて言えた義理じゃないでしょ」
「何をキミ失敬な。しかしこれを着けると何かな、お洒落という事になるのかな?」
「そうですよ。だからお勧め申し上げてるのじゃないですか。こういうのをお着けあそばして銀座にでもお出ましになると、もう女の子からのウケが違う」
キャー先生、お洒落なブローチ。素敵!でも、どうしてサックスなの?
いや、若いころちょっとかじってたもんでね。これでもミュージシャン志望だったんだゾ
「いや、ワシはそんなちゃらけたモンはやっとらんぞ、キミ」
「やってなくても、ここは、やってたって言っとくんですよ」
「嘘をつく訳か?」
「しょっちゅうついてるから、お得意でしょ?」
「キミ、人聞きの悪い事を言うのは謹んでくれたまえ。で、それから?」
「それからじゃありませんよ、ミュージシャンてのは女の子にもてると相場はきまってる・・・」
「あい判った、皆まで言うな。なるほど、それを糸口に女の子の興味、親近感をぐっと高め、こちらへグイと手繰り寄せるわけだな?」
「手繰り寄せられるか、寄せられないかは先生の外交手腕にかかってますが、良い会話の糸口になるんじゃございません?」
「なるほど、合点がいった。外交ならお手の物。なにせ、そちらは本職じゃからな、キミ。では、早速頂くとしよう」
「ありがとうございます。せっかくだから、もうお着けあそばされたらいかがでございます? そんな野暮な議員バッジや党員のバッジなんか外して頂いて」
「そうだな、もう夕刻だし、早速いざ出陣とまいろう」
ことほど左様、世のセンセ、シャチョー、ダンナ、にアニキ。やっぱモテようと思ったら男とて装いに凝らないといけませんぜ。
今宵はひとつ、夜のシジマにむせび泣くサックスのブローチでめかしこんで、いわゆる夜の街へ歓楽に繰り出そうではございませんか。良い事ありますぜきっと、ヒヒヒヒヒ
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