鑑定士 中島の出しゃばり鑑定談

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質業を長年営んでおりますと当然のことながら、色んな方が色んな品物をお持ち込みになられます。
そういった品物の中には、たまに目を見張る様な素晴らしい逸品や、いったい何だいこりゃ?なんて肝をつぶすような珍品にお目に掛かる事がございます。
 
このコーナーではそういった質屋ならではの、いかなる数奇な運命を経てか、図らずも当店に辿り着いた逸品、珍品のコレクションの数々を不肖、鑑定士中島が順を追ってご紹介して参ろうかと存じます。
 
 
 
さて、初回のこの度は、和服がトレードマークのわたくしに相応しく、こちらの帯留めをご紹介することにいたしましょう。
こちら、縦一寸二分、横一寸半と申しますから、結構ぶりの大きな帯留なんですがね、一見すると何の変哲もないべっ甲細工に見えなくも無い。
しかしね、実はこちら、とんでも無い掘り出し品なんでございます。
何が凄いかと申しますと、べっ甲の表面に金銀で描かれた草花の図柄にご注目くださいまし。
この図柄、実は象嵌(ゾウガン)細工によって描かれているんです。
 
象嵌とか螺鈿(ラデン)なんて言っても今の若い方にゃピンとこないでしょうが、普通、象嵌と申しますと、鉄や真鍮などの硬い金属の生地に、金や銀を金槌なんかで打ち込んで、模様にしていく技巧なのでございますが、こちらはそんな金属生地から比べてずっと脆く割れやすい、象嵌細工にはまったく不向きなべっ甲に施されたもの。
この様にべっ甲や象牙、蝶貝などの脆い有機素材に象嵌を施す高度な技術はピクウェともうしまして、16世紀末から19世紀にかけてヨーロッパを中心に栄えた技法なんですね。
これが当時貴族や富裕層に大変な人気を博し、宝飾品や装身具として大流行したのでございます。
 
でもね、残念な事に同時期に起った産業革命の波は宝飾産業にも例外なく押し寄せ、機械化による商品の量産がこのような手間暇の掛かる技術を駆逐してしまったんです。
19世紀末には創る職人も途絶え、それから今日に至るまでこの技術は地球上から完全に姿を消し、僅かアンティークの世界で好事家のみが識る存在となってしまったんです。
 
ところが、このひとたびは滅びた幻の技法を長年の研究と技術の研鑽によって現代に復刻させた偉い人がいるんです。
しかも、なんとこんなところに日本人。
甲府の地で象嵌技法の匠を代々の生業として受け継いできた塩島敏彦氏こそがその人。
現在、世界でただ一人のピクウェ作家なんです。
 
ご覧いただいておりますこちらの作品は、彼の代表作とも言える、べっ甲に純プラチナと純金を埋め込んむ象嵌技法によって描かれた活け花をモチーフとした帯留め兼ブローチなんです。
 
さて、良〜くご覧くださいませ。
まず何と言っても構図が良い!
広口の花活けから大胆に金銀の草花がべっ甲いっぱいにひろがっている。
実に伸びやかで大胆な図柄じゃありませんか。
その大胆な構図と相対する様に細やかな象嵌細工は花弁一枚一枚、細い蔓のしなやかな曲線、花活けの器の幾何学的な文様、そういった諸々の細部までを実に丁寧に、細密に表現している。
塩島氏はね、昔ひとたびは滅びた超絶技巧の細工を現代に蘇らせたばかりか、その技巧の可能性を極限まで広げ、単なるアンティークのレプリカではない独自の世界観を作品の中で展開している。
実に良い仕事してますね~ぇ!
 
こういった作家モノと呼ばれるジュエリーは通常お店や百貨店の店頭で売られることはまずないんです。
なにせ量産がきかないから量販出来ない。
ではどの様にして売られているかと申しますと、可能性として挙げられるのは、有名百貨店が高級ホテルや高級料亭で行う外商VIP顧客を対象とした店外催事と呼ばれるハイジュエリー展示会。
こういう場所では作家先生本人が出張って、直接商品説明を行うと言う贅沢この上無い販売形式が取られますから、お客さんへの説得力も上がるってもんです。
 
では、なぜこんな希少な品が当店に入荷したのでしょうか?
それこそ、神のみぞ知るさだめの不思議というところでございましょうが、ただね、断っておきますが、もう二度とこんな珍しいものは出ないことはだけは確か。
こういった品はね、始終お着けにならなくても、お持ちいただくだけで所有の喜びがふつふつとこみ上げてくる、子々孫々の代まで伝えられる本当のお宝なんです。
ぜひお手元において頂き、末長く大切になさってください。
 
鑑定士歴五十年、中島贋之助でございました。

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