質業を日々営んでおりますと当然のことながら、いろんなお方がいろんな品物をお持ち込みになられます。
そういった品物の中には、たまに目を見張る様な素晴らしい逸品や、いったい何だいこりゃ？なんて肝をつぶすような珍品にお目に掛かる事がございます。
このコーナーではそういった質屋ならではの、いかなる数奇な運命を経てか、図らずも当店に辿り着いた逸品、珍品のコレクションの数々を順を追ってご紹介して参ろうかと存じます。
世間じゃ、なんでも猫ブームだそうで、猫を飼ってる人の数が犬を飼ってる人を上回ったそうでめでたい限りだね〜！何が目出度いんだかよくわかんないけどね（笑）
個人的には猫が好きと言うよりも、猫のような女性が好みなんだけど、生憎そんなヒトに出会うチャンスはこの歳になるまで皆無。イタチとか狸とか猿みたいなのに騙されてばっかりだ。宝石の良し悪しを見る目にゃ自信があるんだが、女を見る目はからっきしだ。
愚痴はひとまずおいといて、今回は猫ブームって事でキャッツアイの面白い商品をご紹介いたしましょう。
さて、こちらの指輪。ちょいっと珍しい、オパールのキャッツアイなんですよ。
普通、世間一般でキャッツアイと呼ばれている石はね、クリソベリルキャッツアイって言う宝石なんです。
昭和の歌姫、杏里が歌うアニメ主題歌の文句じゃ緑色に光るってことになってるけど、上物はねミルクアンドハニーっていって蜂蜜色の地色に金色の瞳がくっきり出るってのが良いんですよ。
そもそもキャッツアイてのは宝石の種類を現す言葉じゃ無くて、文字通り猫の目のような筋が宝石に現れる光学特性を指す言葉なワケ。
だから、どんな宝石でもこの様な猫の目現象が出たらみんなキャッツアイと呼ばれるんだ。アクアマリンキャッツアイ、トルマリンキャッツアイ、エメラルドキャッツアイね。
このキャッツアイ効果、宝石業界なんかじゃフランス語で気取ってシャトヤンシーなんて呼んだりすんだけど、どんなカラクリでこの猫の目が現れるかっていうと、宝石内部に平行に密集する繊維状組織に光が反射して起きるんだ。
綺麗なストレートヘアーの女性の頭頂部分にできる、いわゆる天使の輪っかと原理は一緒。薄毛から地肌が透けるお前の頭はおぼろ月だと、ほー、なかなか上手いこと言うじゃねかー。
さて、こちらのオパールのキャッツアイ。オパールてーと皆さん、七色のモザイク模様のいわゆる遊色効果ってのがお馴染みだと思うんだけど、こちらはオパールで有りながら猫の目が浮かび上がる変わり種だ。
色もいいね！クリソベリルキャッツのハニーカラーよりさらに蜂蜜っぽい良い色だ。いかにも甘そうで、ちょいっと舐めてみたくなる。なりません？
そもそも、こういったカボションカットていうドーム型の宝石はね、良い物はみんな美味しそうな飴玉やドロップみたく見えんだよ。どうも食い意地がはっていけないね。
さて、このデザインを見て下さいな。変わった枠ですが、これは最初から石に合わせてワックスで型を拵えて、それを石膏で型取りするワックスモデリングって方法でつくられてんだが、普通こういう凝った作り方をする物てのは、デザイナーの作品とか、特別な企画品てのが世宝飾業界のとうり相場なんだが、こちらの品物にはそういった品物の証になる刻印とかホールマークって物が全く見当たらない。だから多分ね、これはこのオパールキャッツを石のまんま、つまりルースの状態で売って、でその後デザイナーに何通りかお客の希望に沿う様なデザイン画を描かせて、それで一から創り上げた、大仰に言うと、世界に一つしかない、完全オーダーメイドで作られた商品だと想像がつく。
こういったルースからの商売てのは、宝石の商の中でもなかなかの高等戦術で、駆け出しの小僧や小娘には、おいそれと真似のできない技なんだよ。
何せ、透明や半透明の宝石は実際石だけの時と枠に乗せた時の見え方がまったく違って見える事が多い。
出来上がりがよく見えてくれれば文句は無いんだが、下手すると暗くなったり、透けて見えたりして石の魅力が半減しちまう。
それにデザイン画たって所詮平面に描かれた二次元の絵だから、出来上がりのイメージとはずれる。また、デザイナーの考えを宝飾職人が完全に理解し、コンセプトどおり作れるかって言う問題も出てくる。非常に商売としてはややこしいし、リスクも伴う。でも上手く行くとオーダーメイドてのは大きな売り上げ、ざっと既製品の2〜3倍がとこ獲れるし、お客からのジュエラーとしての信頼度もグンと上がるってもんだ。
ただし、これを質屋や買取屋で処分する場合は何度も言うけど、そんな手間ひまかけた世界に一つだけのって言う付加価値は一切抜け落ちちゃうから、げっそりするお値段になっちまうんだ。残念でしたとしか慰めようが無いでんすがね。
でもね、そういうふうな質屋が査定に加えない付加価値が大きい商品ほど、中古品としての魅力はあるってえ訳。
そういうモノを上手く見つけて買う人が、本当の目利きのお客って言うわけだね。
まあ、実際お店にいらして、手にとってみて下さいな。指輪の腕なんかも驚く程太くてズッシリしてる。いいもんですよ！
鑑定士歴五十年 中島贋之助でございました。
