至高のクズダイヤ

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作家の西村賢太さんが急逝されました。文壇の巨人、石原慎太郎西村京太郎両先生のご逝去のはざまで、なにやらとばっちりを食った感じであまり大々的に報道もされませんが、まだ54歳という若さで私よりずっと若く、存命ならばまだまだ、文芸の道で活躍されるはずだったろうに、まことに惜しまれる死であります。

この方、中学卒業後、数々の肉体労働に従事しつつ、唯一の娯楽を読書に見出し、しかしその半面、文学とはおよそ無縁な無頼の生活を送り、その中で逮捕歴二回というなかなかの荒くれ者。そのような荒んだ生活の中でも創作活動だけは几帳面に続け、これが功を奏して起死回生の芥川賞受賞という異例ずくめの経歴の持ち主なのであります。

作品内容は、無頼派、破滅型とその作風から呼ばれるように、その中学卒業から現在に至るまでのすさんだ生活を包み隠すことなく赤裸々にさらけ出した私小説。

お笑いの方面では、クズ芸人という分野が最近クロちゃんとかナダルなんて言う人の活躍によって確立されたようですが、その段でいくと、彼こそはまさにクズ作家。もう自身のダメな生活ぶりとか姑息な心根、さもしい根性、スケベな下心などを包み隠さずというよりむしろ露悪趣味的にひけらかし、どうだ最低だろ俺って、と開き直って見栄を切ってみせているかのような作風。

実際物語を読み進むうちに、あまりのクズっぷり、下衆野郎ぶりに苦笑がこみ上げてきて、それがクセになってしまうのが氏の作品の魅力。

元来、私小説などと言うと、どうもウジウジとしたネクラなイメージがついて回るのですが、この人の作品は、そんな雰囲気をすら突き抜けて、可笑しみさえ感じられるほど。何せ同じ芥川賞受賞作家でありパンクロックミュージシャンでもある町田康氏が文庫本の帯の推薦文で「激烈におもしろい」と書かれているからには、きっと激烈に面白いに違いあるまい。

ならば、世間の規範、道徳から大きく外れた、クズ人間の見本のような犯罪者の成れの果て、たとえば刑務所の受刑者などに一律に自分に関する作文を書かせたら同様の面白い小説ができ上るかと言うとさにあらず。どのような人間にも己惚れと言うものがある上に、思い上がり、勘違いがこれにプラスされ、実際自分自身への採点は世間の評判よりも高く評価しがち。大概の人間の自分に関して書いたもの、例えば自伝なんて言うものは、自画自賛、自慢話のオンパレード。例え犯罪者であってもそういったところは同じあるいはそういった自分自身に対する過剰な思い上がりのせいで犯罪を犯すと言ったこともございましょう。

ところがこの西村氏逮捕二回の経歴にも関わらず、極めて自分を冷徹な目で見つめ、まるで他人事のようにそのクズさ加減、ダメ男ぶりを惜しみなく披瀝しておられます。これはなかなか並みの人間にできる事ではございません。クズ人間の癖に大ぼらをふき、いかに自分は凄い人間かを吹聴する人間は履いて捨てるほどおりますけどね。

こういったクズ芸人やクズ作家の方々のように、他人を貶めたり、あげつらったり、批判したりせず、あくまでも自己を生贄にして、人間の業の深さを暴いていく捨て身の表現方法に、表現者としての潔さを感じるのはわたくしだけでありましょうか。

と、言う事で今回はクズ野郎ならぬ、クズダイヤのお話。

今でこそパヴェセッティングや中石飾りとしての脇石に使われる小粒のダイアモンド、いわゆるメレダイアを称してクズダイヤなどと呼ぶ人はおりますまいが、わたくしが宝石屋に入社した昭和の時代には、こうしたメレダイアはクズダイヤと呼ばれる事がございました。実際我々売る側がそうした商品をわざわざ貶めるような表現はいくら何でもいたしませんが、お客さんの側が値引き交渉を有利に進める手段としての常套句によく用いられておりました。

「んなもんな、なんぼ石目のっとるちゅたかてやで、所詮クズ石やんけ。んなもん値打なんかあらえんがな、正味の話、ちゃう兄ちゃん?」

などと、わたくしがまだ駆け出しの宝石屋新入社員のころ、当時まだ大阪に広く生息いたしおりました地域特有のガラの悪いおっちゃんによく言われたものでございます。

「何言うてはりますのん大将、腐っても鯛言うてね、いくら小まい言うたかてダイヤはダイヤや、クズなんて言うたらバチ当たりまっせ。よう見てもたら分かりますけど、この小さなダイヤかてきちんと58面体のブリリアントカットになってますんや。そんなガラスが割れた破片同様、ダイヤを砕いたカケラを集めてひっ付けたように言うてもうたらかないまへんな。

なんせダイヤモンドのカット言うのんは全部人間の手ぇでやってますんや。せやからね、ダイヤが小さくなればなるほど大変なんですわ、もう熟練の技が要求されますねん。分かりますやろこの道理。大将も昔ご飯残したらお母ちゃんに叱られましたやろ。お米の一粒一粒にお百姓さんの苦労が詰まっとる言うて。もうそれ以上にこの細かい芥子粒みたいなダイヤモンドの一個一個にはダイヤモンドカッターの職人魂が注入されてますんや」

と、あたふたしてビビりまくっている新入社員のわたくしに、当時の店長が助け舟を出してくれたものです。

さて、こちらのギメル社製パヴェセッティングに留まっておりますクズダイヤは、もうこれ以上ないというくらい最高のクズダイヤ。例えばこの中の一つをランダムに選び、魔法の力で10倍ほどの大きさに拡大したと致しましょう。するとたちまち婚約指輪に留められるクラスのダイアモンドが出来上がるという寸法。しかも、その大きさでそのクラスのダイアモンド、高品質とはいえ、手に入れようとすれば比較的安易に手に入るのに比べ、この小さいサイズの高品質のメレダイアというのは、なかなかおいそれとは手に入らない。一個でも何かの拍子に硬いものにでも当てて、飛ばして紛失しようものなら大変。近いクラスでごまかせれば構わない言う人は贔屓の宝石屋か百貨店さんに頼めば何とか間に合うでしょうが、同品質でないと納得できないとおっしゃる、こだわりのジェムマニアの方はもうギメルさんに直々お願いするしか手がない。そんなにすごい西村賢太級のクズダイヤなんでございますよ。

何?例えが変?いやーあれだけのブリリアントなクズ作家はもう出ませんから、希少価値としては同等と言う意味でございます。まったく惜しい才能でございます。合掌

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