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ハリー中野の宝石コラム

緋色珠の指輪はサラサーテの音色

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新卒で入社した宝石屋ですが、入社二十年目にして転職したのが、現在勤めている会社の前に居りました質屋。

質屋の看板に掲げるからと、多忙な社長になり代わり、GIA(米国宝石学協会)の宝石鑑定士の資格を取りに行くようにとのお指図がありまして、大嫌いな勉強を四十になってしぶしぶ再開する羽目となってしまいました。

なーに、多忙が聞いてあきれる。単なる無精で根気がない怠け者なだけなのですが、一応社長と名前が付けば逆らう訳にもまいりません。

聞けば、その研修はなんでもAGTというところで開講してるとの事。

いったい何で映画会社が宝石鑑定士の教育までやってんだろ、と訝しく思っていたら何のことは無い、そそっかしいわたくしがAGTとATGを勘違いしてただけ。

 

AGTとは、もともと日本宝石鑑別協会(Association of Japan Gem Trust)と名乗っていた宝石の鑑別鑑定及び各種宝石セミナーの提供といった業務を行っている会社で、もちろんGIAの勉強はこちらに行かないといけません。

片やATGとは日本アートシアターギルドという映画製作配給会社で、わたくしが若かりし頃、アートと名乗るだけあって、何やら難解で暗い映画ばかり作って、屈折した若者をより屈折させんが為に映画を作っているような会社でありました。

例えば現代の人気テレビドラマシリーズ「相棒」で主役の杉下右京なる気取った刑事を演ずる水谷豊でございますが、なに昔はATG制作、原作 中上健司 監督 長谷川和彦と聞いただけでもディープな内容を予感させる「青春の殺人者」という映画の中で、なんと両親を二人とも殺めてしまう残虐非道ぶり。何を今さら刑事に化けて、しれっと紅茶なんかすすってやがんだテメー、と豊の暗い過去を知る者としては憤らずにはおれません。まあ、こんな映画を独り見に行く学生だったわたくしもかなりの屈折君ですけどね。

 

さあ、そんなATG制作の映画の中でも特に印象深いと申しますか、わたくしが深く感銘をうけた作品が鈴木清順監督による「ツゴイネルワイゼン」という、そうそうたる内外の映画賞を総なめにした映画史に名を遺す傑作。

この鈴木清順という人、元々は日活でマイトガイ旭やエースのジョーなんて俳優をキャスティングしては、無国籍映画などと呼ばれた娯楽アクション映画を撮ってた監督なのですが、あまりの内容の難解さ故、とうとう日活を馘になってしまったというなかなかの曲者。

この偏屈なおっちゃんがなんと、一切の妥協を許すことなく自分の取りたい映画を撮ると宣言して作ったのがこの「ツゴイネルワイゼン」。

この映画、原作はかの文豪夏目漱石の弟子であり、また元祖鉄道オタクで愛猫家。大飯喰いの大酒呑み、そしてこれもかなりの偏屈者として有名な内田百閒という人が書いた、「サラサーテの盤」という小説が原作。

百閒先生、この小説のほかにも「冥途」などという小説もそうですが、筋がある様で無く、しかもそこはかとない不気味さを孕んでいる物語を書くので有名。

さて、「ツゴイネルワイゼン」と名前も変えた映画の方も原作同様、というか原作を更にアレンジし、より難解にしたような、ストーリーがあって無きが如きの映画。

じゃあ、なにが良いんだというと、その圧倒的な映像美なのでございます。

「清順美学」と後に評されるよう、独特の美意識で見るものを圧倒する、まさに映像芸術の究極的な形。ワンシーン、ワンシーンがそれぞれ一幅の絵となって観る者の心を揺さぶるのでございます。

小説の映画化に当たっては、原作と映画化されたものをよく比較され、やはり元の小説が良いという意見もあれば、出来上がった映画は小説と別物。別の視点で論ぜられなければいかんとか、様々な意見がございます。

しかし、小説に無くて映画にある最大の売り物はやはりその映像。その映像がどのように素晴らしいかを言葉では言い表すことは至難の業で、実際の映像をご覧いただくより他ございますまい。

それでも、敢えてこの「ツゴイネルワイゼン」において表現されている核となる点を指摘するならば、それは日本的な美意識である様な気がいたします。

映画の舞台となった鎌倉の景色。和洋折衷の明治以降に登場した独特の日本家屋。その軒下に吊るされた白熱球がぼんやり灯る球体の電灯。大きな蒲焼をまるまま一本載せた青磁の大皿。そして登場する女優たちの美しい着物姿やその容姿。

日本的な色使いは西欧絵画と日本画を比較すれば明らかなように、色彩の暗さというか鈍さがその特徴なのではないでしょうか。西欧ではゴッホの絵画の様に、燦燦と降り注ぐ惜しみない太陽の光の下で、眩しいくらい咲き誇るヒマワリを描写するのですが、日本の場合、薄暗い部屋のちゃぶ台の上かなにかに置かれた柘榴の実を描き、暗さとの対比の上で色の鮮やかさを表現すると言った、屈折した日本人の心情が投影されているような表現方法が多いようでございます。この映画全体を一貫してしてつらぬいていますのも、こういった日本独特のネガティブな耽美主義とでも言うべき、暗く屈折した美意識ではあるまいかと思うのでございます。。

さて、宝飾品におきまして、そう言った日本的な美意識に最も則った宝石というのが、これからご紹介いたします珊瑚ではございますまいか。

この赤い珊瑚、その色は血赤(チアカ)などと表現されますように、まさに血液の色。

ただ同じ血液の色で評される宝石、ルビーのピジョンブラッド、鳩の血色とでは性質的にも大きく異なります。ルビーの色が動脈を流れる生命力溢れる鮮やかな色の鮮血とするなら、こちらは静脈を流れる暗い血の色。

宝石、特に色石の評価の基準はその色の彩度が高い事、つまり鮮やかさが一つの要因となるのでございますが、この赤珊瑚だけは独特の評価基準がありまして、鮮やかな真っ赤より、それにさらに黒を混ぜて色を濃くしたようなものが良いとされるのでございます。

さて、ご覧いただいておりますこちらの赤珊瑚の指輪。お色は黒い血とまでは行きませんが、安価な橙色の物とははっきり異なる、しっかり均一に赤色の乗った充分に美しい赤玉。

そして凄いのがこの大きさ。直径17ミリを超える滅多にない大玉。その大きな珊瑚の周りを1個がどれも0.2キャラット以上ある美しいダイアモンドが合計14個豪華に取り巻く贅沢極まりない造り。

今の様に世知辛い世の中、着物道楽などと言って和服をお召しになり、生け花やお茶を嗜む優雅な暮らし向きをなさっているご婦人はそう沢山いらっしゃるわけではございますまい。ただ、そのような伝統的な日本の美を体現され暮らしておられるお方には是非お勧めしたい逸品でございます。

この様な大玉珊瑚は環境汚染や乱獲の影響でますます希少性がますばかり。

日本の美を、そのライフスタイルを通して頑なにお守りいただいている、麗しくたおやかな大和撫子にこそ、ぜひこの掘り出し品の珊瑚の指輪を後世にその暮らし向きともどもお伝えいただければと思う次第なのでございます。

 

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